ホーム > NET・NEC(神経内分泌腫瘍)とは?
私たちの病気「NET」とは
ここでは、私たち患者、その家族がまず知っておきたい基本的な内容に絞って記しています。さらに詳しくは、一般患者向けの解説のあるNETLinks、国立がんセンター、その他専門的な内容は医科大学や製薬会社のサイトをリンク集に挙げてありますので、そちらをご覧ください。
1.NET(神経内分泌腫瘍)とはどのような病気なのか
神経内分泌細胞に由来する腫瘍は、病理組織学的に大きく2つに分類されます。
また、NEC(神経内分泌癌)は、低分化型で増殖速度が速くNETに比べるとより悪性度の高い癌です。
この腫瘍は、19世紀後半に初めて報告されて以来「カルチノイド」とも呼ばれてきましたが、2000年のWHO病理組織学的分類の改定で、カルチノイドという名称はなくなり、神経内分泌腫瘍=NENという名称に統一されることになりました。(現在でも一部、カルチノイドという名称が使われることがあります)
- 神経内分泌腫瘍(NET:Neuroendocrine tumor)
- 神経内分泌癌(NEC:Neuroendocrine carcinoma)
また、NEC(神経内分泌癌)は、低分化型で増殖速度が速くNETに比べるとより悪性度の高い癌です。
この腫瘍は、19世紀後半に初めて報告されて以来「カルチノイド」とも呼ばれてきましたが、2000年のWHO病理組織学的分類の改定で、カルチノイドという名称はなくなり、神経内分泌腫瘍=NENという名称に統一されることになりました。(現在でも一部、カルチノイドという名称が使われることがあります)
2.発生部位
神経内分泌細胞の存在する様々な部位で発生しますが、 | |
特に多いものは、 | |
肺(27%)直腸(17.2%)空腸/回腸(13.4%)膵臓(6.4%)
です。また、その他に 胃(6.0%)虫垂(3.0%)結腸(4.0%)肝臓(0.8%)十二指腸(3.8%)胸腺(0.4%)盲腸(3.2%) など呼吸器や消化器がほとんどですが、 内分泌腺である下垂体、副甲状腺、甲状腺、副腎に発生することがあります。 |
3. 症状
NETには、悩ましいホルモン症状が現れる機能性NETと顕著なホルモン症状を現さない非機能性NETがあります。
機能性NETは、インスリノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド症候群、VIPオーマ、グルカゴノーマなどがあり、ホルモン症状が異なります。異常に多くのホルモンが分泌され、インスリノーマでは動悸、冷や汗などの低血糖症状、ガストリノーマでは消化性潰瘍や逆流性食道炎、カルチノイド症候では顔のほてり、喘息のような息苦しさ、心臓障害、肌の変化、VIPオーマでは激しい下痢、グルカゴーマでは大腿部皮膚の紅斑などの症状を引き起こします。
非機能性NETの場合、ほとんど自覚症状がなく、初期では健康診断やほかの画像診断で偶然に発見されることが多いです。
機能性NETは、インスリノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド症候群、VIPオーマ、グルカゴノーマなどがあり、ホルモン症状が異なります。異常に多くのホルモンが分泌され、インスリノーマでは動悸、冷や汗などの低血糖症状、ガストリノーマでは消化性潰瘍や逆流性食道炎、カルチノイド症候では顔のほてり、喘息のような息苦しさ、心臓障害、肌の変化、VIPオーマでは激しい下痢、グルカゴーマでは大腿部皮膚の紅斑などの症状を引き起こします。
非機能性NETの場合、ほとんど自覚症状がなく、初期では健康診断やほかの画像診断で偶然に発見されることが多いです。
NETの種類 | 産生ホルモン | 主な症状 | 腫瘍のある 部位 |
検査 | 治療 |
---|---|---|---|---|---|
インスリノーマ | インスリン | 低血糖症状(眠気、思考の低下、意識障害、動悸、冷や汗) | 膵臓 | 血糖値が低下している(空腹時)にもかかわらず、インスリンが検出される。 | 手術 症状を改善するための薬物療法 |
ガストリノーマ (ゾリンジャー・エリソン症候群) |
ガストリン | 胃から胃酸が多量に分泌され、そのために消化性潰瘍や逆流性食道炎が起こる。胸やけ、腹痛、下痢なども。 | 膵臓 十二指腸 |
空腹時血清ガストリン濃度検査。胃酸分泌測定検査。等。 | 手術 症状を改善するための薬物療法 |
カルチノイド症候群 | セロトニンなどの活性アミン、その他多種類の生理活性物質。 | 顔面などの潮紅(皮膚が赤くなる・ほてり)、下痢、腹痛、喘息のような発作。心不全など | 主に、気管支、肺、腸(小腸、虫垂、大腸)に発生する。他にも膵臓、性腺、甲状腺に発生することがある。 | 尿検査:5-HIAA(5-ハイドロキシインドール酢酸:セロトニンの代謝産物)の測定 | 手術 症状を改善するための薬物療法 |
VIPオーマ | VIP(血管作動性腸管ペプチド):消化管機能を調整する局所ホルモン | 激しい下痢が特徴的。 他に脱水による疲労感、筋力低下、息切れ、筋肉のけいれん、吐き気、嘔吐、等・も。 | 膵臓または十二指腸などの消化管 | 血液検査(VIP濃度測定) | 手術 症状を改善するための薬物療法 |
グルカゴノーマ | グルカゴン | 紅斑:下腹部から太ももの皮膚に紅い斑点ができる。かゆみ・痛みを伴い移動するのが特徴。糖尿病、体重減少、貧血 | 膵臓 | 血液検査:血中グルカゴン測定。血中アミノ酸濃度測定 | 手術 症状を改善するための薬物療法 |
4.NETの分類
表 NETの2010年WHO分類
WHO Classification of tumours of the Digestive System Eds: Bosman FT, et al. 4th Edition,2010 IARC Oress, Lyons France
2010年 WHO分類 | 核分裂像数 | Ki-67指数 | 特徴 | |
---|---|---|---|---|
神経内分泌腫瘍 (NET) |
NET G1 |
<2 | ≦2% | 高分化型 カルチノイド腫瘍と呼ばれる場合もある |
NET G2 |
2~20 | 3~20% | ||
神経内分泌癌(NEC) (大細胞癌あるいは小細胞癌) |
>20 | >20% | 低分化型 腫瘍細胞は、正常細胞の機能をほとんど持たず、未熟で増殖能が高い 増殖能は高く、高悪性度 小細胞癌、大細胞癌に分けられる |
5.診断
機能性NETは多様な症状を引き起こすことがありますが、これらの症状は期間をかけて徐々に悪化します。それで診断に長い時間がかかることもあります。初期に発見できれば外科手術を行い治癒しますが、後期の段階に診断されると他の部位に転移していることもあります。
非機能性NETは、症状が全くない場合が多くて診断が遅れます。NETと他の癌や腫瘍との鑑別には、生検を受けて病理診断をすることが必要となります。
非機能性NETは、症状が全くない場合が多くて診断が遅れます。NETと他の癌や腫瘍との鑑別には、生検を受けて病理診断をすることが必要となります。
6.検査と走査
- )検査
- 血液検査:機能性NETの診断には、ホルモンやペプチドの血液中の濃度が増加していないかを見ます。
- 尿検査:カルチノイド腫瘍の診断には5-HIAA(ヒドロキシインドール酢酸:尿中に排泄されるセロトニンの分解産物)が尿中に通常より多く排泄されていないかを調べます。
- 組織検査:腫瘍と疑われる組織の一部を取り、病理医が診断します。NENと診断されれば、さらに核分裂像数や・Ki-67指数が検査されます。
- 消化管内視鏡検査:胃内視鏡検査(胃カメラ)や、大腸内視鏡検査があります。
- 選択的動脈内刺激薬注入法(SASI Test; Selective arterial secretagogue injection test):膵臓や十二指腸に発生する機能性NETの局在診断が難しい場合に用いられます。日本で開発された検査法で、血管造影用カテーテルを使用して検査を行います。
- )画像診断検査
- ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(オクトレオスキャン):多くのNETで神経内分泌腫瘍はソマトスタチン(脳視床下部や消化器から分泌されるホルモン)に対する受容体が発現しています。この受容体を検出するソマトスタチン受容体シンチグラフィー(Somatostatin receptor scintigraphy: SRS、商品名:オクトレオスキャン)によりNETが描出できます。NET診断に欠かせない画像診断法です。ソマトスタチンアナログ製剤の治療適応の評価に用いられることもあります。2015年から本邦において111 In(インジウム)オクトレオチドを用いるSRSが検査可能となりました。 欧米では、68 Ga(ガリウム)オクトレオチドを用いるSR画像のほうが、解像度がより優れているとして用いられています。
- 68Ga‐DOTATOC:ソマトスタチン受容体イメージングとして68 Ga標識DOTATOCを使用した解像度の高いPET/CT検査(2016年現在は、未承認)
- CT(コンピューター断層撮影):X線撮影によって得られた情報をコンピューターで処理して身体の断面の像を表示する装置。診断に必要な検査のひとつです。 被ばくします。
- MRI(磁気共鳴画像法):強い磁場と電波を使い体内の状態を断面像として描写する検査です。肝転移の診断有用です。被ばくしません。
- FDG‐PET(陽電子放射線撮影法):糖分の取り込みを利用した増殖力の強い腫瘍に集積するPET/CT検査
7.治療の選択肢
いろいろありますが、いくつかを紹介します。
- )外科治療・手術
腫瘍が全て取り除けると診断された場合には、切除術が推奨されます。腫瘍が転移している場合、機能性NETの場合には減量手術といって、NETの量を減らす手術によりホルモン症状を軽減できる場合もあります。消化管が腫瘍によって塞がれて食べ物が通過しない状態であれば、食事が通るようにするために手術することもあります。
外科手術の術式は、例えば、膵臓NETの場合、大きく3種類で次のようなものがあります。
- 核出術
腫瘍のみを摘出する術式。腫瘍が低悪性度で主膵管から離れている場合に行われます。開腹手術と腹腔鏡下手術のどちらかで行います。 - 膵頭十二指腸切除術
膵臓の頭部と、十二指腸を切除する手術ですが、胆嚢も切除されます。胃を半分切除する(PD)と胃を残す方法、亜全胃温存手術(SSPPD)または全胃幽門輪温存(PPPD)があります。消化器外科領域では、最も侵襲の大きな手術のひとつと言われています。保険収載は、一部の施設で腹腔鏡手術であり、開腹手術のことが多いです。 - 膵体尾部切除術
膵臓の体部、尾部と脾臓を切除する術式。脾臓を切除する場合と脾臓を温存する場合があります。開腹手術と腹腔鏡下手術のどちらかで行います。
直腸NETの場合、がんの大きさとリンパ管や静脈への浸潤の程度と、肛門括約筋との位置関係が手術方法を決定するうえで重要です。
小さい腫瘍の場合は、内視鏡的粘膜切除術(EMR)が行われます。
リンパ節転移の可能性が高い場合には、開腹による直腸低位(高位)前方切除術またはマイルズ手術が選択されます。直腸低位(高位)前方切除術またはマイルズ手術が行われた場合、手術後に機能的な問題として性機能障害、排尿障害、排便障害が生じることがあります。
- 核出術
- )肝動脈化学塞栓療法
肝臓に転移している場合、肝動脈化学塞栓療法(TACE)を提案されるかもしれません。この処置は、鼠蹊部から、肝臓の腫瘍に血液を送っている肝動脈にカテーテルを通します。そのカテーテルを通して塞栓球体と呼ばれる微小な粒子を動脈に注入すると、肝臓内の細い動脈の中でこの粒子が膨らみ、腫瘍への動脈血の供給を妨げます。これで腫瘍への酸素の供給を断ち、NET細胞を死なせます。
- )NET治療に有効な薬
A.分子標的薬
近年、新しく開発された薬で、NETの増殖に関係する特定の標的となる情報伝達経路を狙って攻撃し、腫瘍が大きくなるのを抑えます。正常な細胞にはあまり影響を与えませんが、いろいろな副作用もあります。- アフィニトール(エベロリムス):膵原発の神経内分泌腫瘍において治療効果が認めたことから日本で使用が可能になりました。本年(2016年)秋から消化管、肺の神経内分泌腫瘍にも使用可能です。
- スーテント(スニチニブ):血管新生増殖因子受容体を特異的に阻害する薬剤として
膵原発神経内分泌腫瘍にたいする治療薬です。
- ソマトスタチンアナログ(成長ホルモン分泌抑制ホルモン類似体):ソマトスタチンアナログは、腫瘍が大きくなるのを抑えたり、小さくしたりする効果が期待できます。また、機能性NETによって引き起こされる不快な症状を軽減するのに利用することができます。ソマトスタチンは、内分泌細胞からのホルモンやペプチドの分泌を抑制するホルモンです。脳と消化管で産出され体内に自然に存在します。ソマトスタチンアナログ(ランレオチドやオクトレオチド)はソマトスタチンの人工合成薬のことです。これらの類似体の注射はホルモンの過剰産出を止めることができます。
主な副作用は、脂肪便(便は軟らかく量が多くなり色が薄くなる)や無症候性の胆石であり、重篤なものはほとんどありません。
NET細胞のDNA合成を阻害して、NET細胞が増殖するのを抑えます。正常な細胞にも影響を与えることが多く、副作用が出やすいため、充分なケアが大切です。- ザノサー(ストレプトゾシン):安全性と有効性が検証され、エベロリムスやスニチニブが登場する前から使用されています。日本では2015年に膵臓NET、消化管NETに適応となりました。
その他にも現在進行中の臨床試験がたくさんあり、NETに対して有用な薬や、最適の薬剤の組み合わせが研究されています。
- )放射線核種療法(PRRT) 日本では未承認です。ソマトスタチンアナログにベーター線を放出する核種を結合させた薬を静脈注射して、ソマトスタチン受容体を有するNETに集積させて、NET細胞を死なせる治療法です。PRRT(放射性核種標識ペプチド療法(Peptide receptor radionuclide therapy)と呼ばれます。
- )そのほかの治療法
- ラジオ波焼灼術(RFA)
- 凍結融解壊死治療(冷凍アブレーション)
- 経皮アルコール注射
- 体外放射線照射療法
現在、日本では行われておらず、海外で可能な治療法です。(スイスやイギリス)
横浜市立医大の小林 規俊先生がスイスへの渡航の橋渡しをされています。
京都大学ではロンドンへ行く場合が多いようです。